山西省の秋

李白 「太原早秋」
 
李白は若い頃、この地方を放浪したことがあるようです。懸空寺の下に「壮観」と岩に彫られた字があり李白の書と伝えられていますが、たぶん嘘でしょうね。

歳落衆芳歇   歳は落ちて 衆芳歇(や)み
時当大火流   時は大火の流るるに当る
霜威出塞早   霜威 塞を出でて早く
雲色渡河秋   雲色 河を渡りて秋なり
夢繞辺城月   夢は繞る 辺城の月
心飛故国楼   心は飛ぶ 故国の楼
思帰若汾水   帰るを思うこと 汾水の若(ごと)く
無日不悠悠   日として悠悠たらざること無し


歳は草木が凋落する時節となり花々は終わってしまい、大火(蠍座のアンタレス)が西に流れる季節となった。
砦を出てみれば、早くも霜の厳しさを感じ、雲の色も黄河のこちら側ではすっかり秋の気配である。
夢はこの辺境の町に上る月を繞っているが、心は故郷の楼閣へと飛んでいる。帰りたいと思う心は汾水の流れのように、一日として悠々たる思いが起こらぬことはない。
汾水:山西省を流れる黄河第二の支流

元好問 「外家南寺」
 
南宋と対峙していた「金」の官僚・詩人であった元好問は「金」こそが中原の国で中国文化の伝承者であると自負していました。金は元に滅ぼされ元好問は亡国の詩人として悲痛に満ちた詩をつくりつづけます。先日の旅で山西省の観光地図を見ると通った高速道路のそばに元好問の墓というのがありました。ちょっと寄ってみたかった。

鬱鬱秋梧動晩煙  鬱鬱たる秋梧 晩煙を動かし
一庭風露覚秋偏  一庭の風露 秋の偏(あまね)きを覚ゆ
眼中高岸移深谷  眼中の高岸 深谷に移り
愁裏残陽更乱蝉  愁裏の残陽 更に乱蝉
去国衣冠有今日  去国の衣冠 今日有り
外家梨栗記当年  外家の梨栗 当年を記す
白頭来往人間徧  白頭 来往 人間に徧し
依旧僧窓借榻眠  旧に依り 僧窓 榻を借りて眠る

こんもりと茂った秋のアオギリは夕もやを漂わせ、庭一面の風や露はもうすっかり秋となったことを覚えさせる。
高い岸が深い谷となるような世の変動を見てきた私、その感傷の中で見る夕日、そして乱れ鳴く蝉の声。
役人時代の衣冠は今も残っており、昔、外家(母の里)で食べた梨や栗は今も記憶にある。
白髪頭になるまで、世間を行き来してゆっくりする間もなかったが、今日は昔のように寺の窓の下で長いすを借りて昼寝をしよう。

参考文献
 漢詩選8 李白 青木正児 集英社
 中国詩人選集二集 元好問 小栗英一注 岩波書店

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